3 リストラされた研究者たち

ゲートボール場を出て、村へ帰る途中に、公園によった。

公園から、スピーカーを通した演説が、聞こえてきた。

ネクタイを締めたサラリーマン風の男が3人と、 白衣を着た学者風の男女が十名ぐらい、公園で中にいた。

そのうちの一人がマイクを握りしめて、自分たちがペットフードの会社をクビになったのは、不当な解雇であると訴えていた。

公園には、その人たちがいで、話を聞いている人は、わずか十人ぐらいしかいなかった。

あとはやはり犬ばかり。

聴衆は畑仕事帰りの村人のようだった。

公園にいる犬たちは、ゲート場の犬と比べて、 少し様子が違っていた。

ブラブラ歩き回ったり、寝転んだり、大あくびする犬はいなくて、みな演説している白衣の男の声を聞き入るかのように背筋を伸ばして座っていた。

一匹のしば犬がそばへやってきて、クンクンにおいをかぎだした。

犬はものいいたげにぼくを見上げた。

ぼくは何も言わず頭をなでてやった。

「…というわけで、ダイエット・ビューティーなる組織は実に卑劣な会社であります。 私どもはご家庭のペットたちが一刻も早く健康を取りもどせるようダイエット・ビューティー社を告発していきます。そのためには、ぜひとも皆様のご理解とご協力が必要なのであります」

白衣の男の長い話が終わった。

途中から聞いていたので、いったい何を訴えていたのかよく分からなかった。

ぼくはウィンキーの写真を取り出して、男たちのいるステージに向かった。

写真を見てもらい、この犬をこの辺で見かけたと聞いてやってきたが、ご存知ないですか?とたずねた。

「この犬だったら確かにいたよ。 でもここ二、三日見かけないな」

白衣の男は仲間たちに写真を見せながら言った。

ぼくがこの犬の飼い主で、遠く離れた町から探しにやってきたことを話すと、男たちは同情してくれた。

「この犬たちは悪者が仕掛けたわなから逃げてきたんだ」

「わな?」

「そうさ。 人間には気がつかない。 犬にとってはとてもはた迷惑なわなだったのさ。 もっと話が聞きたければ、ぼくらの研究室にきてみないかい?」

男たちはぼくを誘った。

訳のわからなさがあるにしろ、悪い人には見えなかったのでぼくはその人たちについていった。

研究室はさっききたゲートボール場のバラック小屋だった。

小屋に帰ってきた十三名の大人たちは、以前ペットフードの会社に勤めていたそうだ。


「栄養価の高い健康的なベットの食事を研究していたんだけど、巨大資本のダイエット・ビューティー社がぼくらの会社を買い取り、ビューティー社のダイエットペットフードを大々的に売り出すよう命令したんだ。今の時代、ペットは運動不足で、肥満傾向にある。そこで食べてもあまり太らないペットフードを開発し、これからのペットフードの主流にしようと考えたわけだ。そこまではぼくらもわかるさ。決してまちがっちゃいない」

学者風の男が小屋の中に積んだセメント袋を軽く手で叩いた。

「これはぼくらが以前開発したドッグフードさ。栄養価は高いし、何百人ものブリーダーから意見を聞いて、犬の好みそうな味に仕上げてある。ビューティー社からは廃棄するように命令されたけど、実は捨てないでとってあったんだ。ぼくらはビューティー社のダイエットペットフードにどうしても賛成できなかった。だって栄養はスカスカだし、まずくて食えたものじゃない。犬たちには不評だったんだ」

犬たちには不評?ぼくは首をかしげた。

男はかまわず話をつづけた。

「ビューティー社が「ビューティー』を発売したとき、確実に売れるように卑怯なCMをテレビに流したんだ。君たちはテレビを観るのは学校から帰ってからだろうけど、君たちのお母さんはお昼ぐらいからテレビを観るんじゃないかな。ビューティー社は君たちのお母さんをねらって集中的に『ビューティー』のCMを流した。あのCMには実は催眠効果があるナレーションが入っていて、何度も繰り返し聞いていると、本当にその品物を買いたくなってしまうんだ。君のお母さんも『ビューティー』を山ほど買ってきただろう」

ぼくは思わずうなずいた。

「やっぱりあれは催眠術にかかっていたんだ。どうりでいつもの母さんとちがうと思った」

「そればかりじゃない。ビューティー社は隠れて犬の嫌がる信号を流しているらしい。 犬たちにストレスを感じさせることで、食欲を増進させ、必要以上にドッグフードを食べさせようとしているんだ。君は見ただろう、この村に集まっている飼い犬たちを」

「見たさ。でもどうしてここへ集まってきたんだろう」

「犬たちの情報網があるらしくて、ぼくらがここでおいしかったころのドッグフードを食べさせているってことが仲間内で伝わったのさ。もっともこれっぽっちじゃ、あと一ヶ月ももたないだろうけど…」

 

つづく

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